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「聴こえない音」が脳に届く?――ハイパーソニック・エフェクトと、私たちが「全身で音を感じる」という話
こんにちは。おくがわ整体院、院長の奥川です。
先日、整体院でBGMを流しているスピーカーを少し良いものに買い替えました。
そうすると当然、いろいろ調べ始めるわけです(笑)。
Bluetoothがどうとか、ハイレゾがどうとか、何Hzまで再生できるとか……。
そして調べているうちに、以前から私が非常に面白いと思っていた「ハイパーソニック・エフェクト」という研究に、改めて行き着きました。
これがまた、身体を扱う仕事をしている私からすると非常に面白い。
「人間は、本当に耳だけで音を聴いているのか?」
今回はそんな、一見すると少しSFのようでありながら、実際に脳科学の研究対象になっている「聴こえない音」の話をご紹介します。
そもそも「良い音」って何なのでしょう?
コンサートホールで生演奏を聴いたとき。
森の中で、鳥の声や虫の声、葉っぱが風に揺れる音に包まれたとき。
録音された音楽とは何となく違う、言葉では説明しにくい「空間全体に包まれるような心地よさ」を感じた経験がある方もいると思います。
もちろん、そこには視覚や空間、振動、期待感など、いろいろな要因があります。
ですから、単純に「高周波があるから生演奏は感動する」と結論づけることはできません。
ただ、その一つの要素として研究されているのが、一般的に人間の耳では音として認識できない20kHzを超える高周波成分です。
人間は通常、20kHzを超える音を「音程」として聴き取ることはできないと考えられています。
だったら、そんな音はカットしてしまっても何も変わらない。
普通に考えれば、そうなります。
ところが、そこで「いや、本当にそうなのか?」と調べた人たちがいました。
ハイパーソニック・エフェクトとは?
2000年、大橋力氏らの研究グループは、アメリカ生理学会の学術誌「Journal of Neurophysiology」に興味深い研究を発表しました。
簡単に言うと、
人間には音として聴こえない高周波成分を豊富に含む音と、それを取り除いた音を比較すると、脳活動などに違いが見られた
という研究です。
この現象が「ハイパーソニック・エフェクト」と呼ばれています。
研究では、可聴域の音だけを聴いた場合と、可聴域の音に超高周波成分を加えた場合を比較しています。
すると後者では、
- 脳波のα帯域活動の増加
- 視床や脳幹など深部脳領域の血流変化
- 音をより快く感じる主観評価
などが報告されました。
ここで重要なのは、超高周波だけを単独で聴かせれば同じことが起きる、という話ではないことです。
人間に普通に聴こえる音と、複雑に変化する高周波成分とが一緒になった音環境で観察された現象です。
このあたりは、かなり大事だと思います。
面白いのは「耳ではなく身体かもしれない」ということ
そして私がこの研究で一番面白いと思うところがここです。
では、その「聴こえない音」を一体どこで感じているのか?
普通は「音なんだから耳でしょう」と思いますよね。
ところが、その後の研究では、超高周波成分を耳だけに提示した場合よりも、身体表面を含めて提示した場合にハイパーソニック・エフェクトが現れることが報告されています。
つまり、少なくとも研究グループは、通常の「耳で聴く」という経路以外の何らかの仕組みが関与している可能性を示しています。
まだ、その受容メカニズムが完全に解明されたわけではありません。
ですが、ここから先が身体を仕事にしている人間として非常に面白い。
人間は、環境を「五感」というきれいに分離された5つのセンサーだけで感じているわけではないのではないか。
私はそんなことを考えてしまいます。
音、振動、皮膚感覚、空間、視覚、身体内部からの感覚。
実際の人間の知覚というのは、おそらくもっと複雑に絡み合っています。
これは私が普段、整体や運動指導で身体を見ているときに感じることとも非常によく似ています。
熱帯雨林は「高周波だらけ」
さらに面白いのが自然環境です。
ハイパーソニック・エフェクトの研究では、熱帯雨林の環境音などには非常に豊富な高周波成分が含まれていることが紹介されています。
鳥、昆虫、葉の擦れる音、水の音。
自然界の音というのは、人間が作った単純な電子音とは比較にならないほど複雑です。
しかも時間的にも一定ではありません。
常に細かく変化しています。
私はここが非常に重要なのではないかと思っています。
人間の身体は、工場で作られた機械ではありません。
呼吸も一定ではありません。
心拍も完全な一定間隔ではありません。
歩行も、一歩一歩まったく同じではありません。
生命というものは、ある程度の「ゆらぎ」を持っています。
そして自然界の音もまた、非常に複雑なゆらぎを持っています。
だから私は、単純に「高い周波数が出れば良い」という話より、こちらの方がずっと面白いと思います。
では「ハイレゾなら身体に良い」のか?
ここで注意したいのが、最近よく聞く「ハイレゾ」という言葉です。
ハイレゾ音源や高性能なスピーカーは、CDより広い周波数帯域や高い情報量を扱えるものがあります。
では、
「ハイレゾを聴けばハイパーソニック・エフェクトが起きて健康になるのか?」
というと、話はそんなに単純ではありません(笑)。
そもそも元の録音に超高周波成分が含まれていなければ、再生機器だけ高性能にしても存在しない音は出てきません。
また研究では、高周波なら何Hzでも同じ作用をするわけではなく、周波数帯によって脳波への影響が異なる可能性も報告されています。
さらに、自然環境音のような複雑で時間的に変化する音の構造も重要だと考えられています。
つまり、
「20kHz以上が出ます!」=身体に良い音
というほど単純な話ではありません。
この辺は健康情報とまったく同じですね。
一つの数字だけ取り出すと、だいたい話がおかしくなります(笑)。
科学というのは「分かったこと」と「まだ分からないこと」を分けるもの
こういう研究を紹介すると、どうしても
「やっぱり超高周波は身体に良いんですね!」
となりがちです。
でも私は、そこまで言わない方が面白いと思っています。
分かっているのは、特定の条件下で、可聴域外の高周波成分を含む音によって脳活動や心理評価などに違いが観察されたということ。
一方で、
- 身体のどこで、どのように受容しているのか
- どの周波数帯が重要なのか
- どんな音源なら再現されるのか
- 長期的な健康への影響があるのか
など、まだ研究すべきことはたくさんあります。
科学というのは「全部分かりました」と言うためのものではなく、「ここまでは分かった。でも、ここから先はまだ分からない」と境界線を引いていく作業だと私は思っています。
その方が、ずっと面白い。
「耳で聴く」から「身体で環境を感じる」へ
私がこの研究を面白いと思う最大の理由は、音響機器の話そのものではありません。
人間の身体は、私たちが意識している以上に、環境から膨大な情報を受け取っているのではないか。
というところです。
私たちは普段、
「目で見る」
「耳で聴く」
「鼻で嗅ぐ」
という具合に感覚を分けて考えます。
でも、本当の身体はそんなに単純ではありません。
皮膚もあり、筋肉もあり、関節もあり、内臓もあり、平衡感覚もある。
そして、それらすべての情報を脳が統合しながら「今ここにいる自分」を作っています。
そう考えると、音楽を聴くという行為も、
単に「耳から脳へ音声データを送っている」と考えるより、「身体全体が環境の中に置かれている」と考えた方が、人間の実際の姿に近いのかもしれません。
たまには「全身で音を浴びる」のも良いかもしれません
だからといって、高級オーディオを買いましょうという話ではありません(笑)。
整体院のスピーカーも、そこまで高級品ではありません。
ただ今回スピーカーを変えてみて、改めて
「良い音って、一体何なのだろう?」
と考えるきっかけになりました。
好きな音楽を少し丁寧に聴いてみる。
ライブへ行ってみる。
海や山へ行って、風や水、鳥や虫の音をぼーっと聴いてみる。
そんな時間は、イヤホンから情報として音楽を流し続けることとは、また少し違う身体体験なのかもしれません。
そして最後に一つ。
あなたが最後に「耳で聴く」のではなく、全身で音を浴びたのはいつでしょうか?
たまにはスマホを置いて、身体そのものが何を感じているのか観察してみる。
それもなかなか面白いと思います。
参考資料
- 芸能山城組/文明科学研究所「聴こえない高周波が脳を活性化する:ハイパーソニック・エフェクトの発見」
- Oohashi T, et al. Inaudible High-Frequency Sounds Affect Brain Activity: Hypersonic Effect. Journal of Neurophysiology. 2000.
※本記事はハイパーソニック・エフェクトに関する研究をご紹介することを目的としたものであり、特定の音源や音響機器による疾病の予防・治療効果を示すものではありません。





